LOST LAND/ロストランド

2025.10.31

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第38回東京国際映画祭 オフィシャルレポート

第38回東京国際映画祭<Nippon Cinema Now>部門にて公式上映され、レッドカーペットへの登壇、そしてジャパン・プレミア上映が行われました。本作が日本の観客に披露されるのは今回が初めてとなります。ジャパン・プレミアの上映後には藤元監督、渡邉一孝プロデューサー、撮影監督の北川喜雄氏が登壇。Q&Aを実施し、観客からの質問に答えました。


映画『LOST LAND/ロストランド』のジャパン・プレミアの上映後には、会場内に大きな拍手が鳴り響き、その後、藤元監督、渡邉プロデューサー、撮影監督の北川氏が登壇。作品への想いや制作の裏側について語った。

藤元監督は「ベネチアから始まり、様々な国で上映してきて、ようやく日本で皆さんの前でこうしてお披露目できることがすごく嬉しく思っております」と喜びを語った。一方で、「主演で出てくれた子供たち2人。実際にロヒンギャの人たちが出演しているんですけど、こういう晴れ舞台があってもパスポートがないなど事情があり、国外に渡航することはできません。一緒に立ち会うことができないことは非常に残念ですが、その代わり、僕ら3人で今日は進めさせていただければなと思います」とロヒンギャの現状を伝えた。

渡邉プロデューサーは「これまでの藤元作品の中でも最大の挑戦作になります。インディペンデント映画としての精神がすごく滲み出るような。そして、それが自分たちのチームだけではなく、日本、フランス、マレーシア、ドイツと、4カ国の共同制作で、スタッフは8、9か国以上の人たちが一丸となったからこそできた企画だなと思っております」と語り、国際的な制作体制への手応えを述べた。

撮影監督の北川氏も「僕も彼らのこの映画の旅に、一緒に撮影し、いいものが撮れたと思っています」と感極まった様子で涙して語った。

その後は観客からの質問に答える形でトークが進んだ。

観客から「劇中の船でロヒンギャ語で歌うシーンがすごく印象的でした。歌は実際に彼らがよく歌っているような歌だったんでしょうか」と質問が上がると、藤元監督は「歌詞だけはオリジナルで、メロディーは通訳してくれたロヒンギャの方がよく聞いていたメロディーをもとに、彼自身が作ってくれた歌です。たまたま、エキストラの中に歌手の方がいて、3人でディスカッションしながら決めていきました」と説明した。

さらに、別の観客から「藤元監督の作品はドキュメンタリーと見間違うような作品が多いですが、子供たち2人はどこまでシナリオを理解して、どこまでセリフは自然なのか」と問われると、藤元監督は「基本的にいわゆる映画の脚本というものは毎回ありまして、今回もそうなんですけども。ロヒンギャの出演者は、文字を通してのコミュニケーションが難しかったので、基本的には脚本に書かれていることを口頭で説明していく撮影のスタイルでした。子供たちには構成上外せないセリフだけは、結構練習をしてもらったんです。特にラストシーンの弟くんは4歳とは思えないほど、頑張って練習をして演じてくれました。お姉ちゃんも説明を自分なりに受け取って、現場でどんどん発揮してくれたので、ほんとに撮影が進むにつれ、芝居に対して、ゲームをクリアしてるような感覚で楽しくなってきているように僕には⾒えました。2人の頑張りとしか言いようがないです」と明かした。

また藤元監督は「お姉ちゃんはこのような旅のことについてはお母さんとかから聞いており、エキストラの方々の中でも、多くの方がこのような旅を経験されている中で、日常的にたくさん話すわけではないですけども、知っているということはかなり地になっていたんではないかなと思います。お姉ちゃんが撮影の中盤あたりで、『なんか今のセリフの言い方、私、気に食わない』って言ったんです。あの時、すごいなと思いました」と笑いを誘った。

撮影監督の北川氏も「撮影しながらブートキャンプのように、子供たちがどんどんカメラのこともわかるようになって、現場の中で進化していくので、ついていくのがすごい大変でした」と振り返った。

撮影について尋ねられると、藤元監督は「結構、本番前にカメラのポジションを決めていた感じがしますよね」と振り返りつつ、「ただ、カメラと撮っているものに対する近さって、その人への愛着で決める人と映画的な発見をしたいという欲望で決める人は、これまでの経験上、タイプが分かれる。北川さんが面白いのが、どっちかに偏ってない。それ以上行くと何か一線を超えてしまうっていう部分があって。寄る時にすごい気持ちいいポジションを即興で撮っていた。特にラストシーンで思いましたね。僕だったらめっちゃ寄るなとか(笑)」と語り、会場を和ませた。

北川氏は「そうですね、適切だったと思います。僕はちょっと自覚なしかもしれないですよ(笑)」と笑顔を見せると、藤元監督も「自覚すると嫌です(笑)」と笑いを交わした。

また北川氏は「いつも被写体の人を好きになりすぎて寄っちゃうんですよ。でも、あの時はちょっと寄りすぎないようにやろうという意識だったので、そこがちょうど良かったのかもしれないのと、あとはレンズの選択について監督とディスカッションできていたので、共通言語があるっていうことがよかったかなと」と語った。

トークの終盤、観客から「ロヒンギャの問題っていうと、ミャンマー2017年8月末に大虐殺があって、70万人以上がバングラディッシュに逃れて、今も8年以上経ちますけど、問題解決してない。ミャンマーでもクーデターが2021年2月にあって、混沌としていて解決していない、大変な状況なんですけど。ミャンマーとずっと向き合ってきた藤元監督が、ミャンマーの中でも1番タブーというか、触れちゃいけないテーマに切り込んだ覚悟を感じました」との声が上がると、藤元監督は「『僕の帰る場所』という映画を撮りましたが、その前にやりたかったことではあったんですけど、ずっとこの題材を。出演してくれるっていうのが一番リスク。僕らの知らないとこで上映されるわけで。じゃあ、その時オッケーでも、1年後やっぱやめとけばよかったなってなるかもしれないし、そういった意味では、その覚悟を持って出演してくれたっていうのはすごいありがたかったなと思います。ほんとに、とばっちりで北川さんがミャンマー出禁になるかもしれないし。でもほんとに僕だけじゃなくて、それはみんなの色々な思いがあってこの映画ができたっていうのは、ミャンマーと関わってきた僕自身が結構救われてるなって思いました」と感慨深げに語った。

本作はベネチア国際映画祭の受賞以降、アジア太平洋映画賞・最優秀監督賞にノミネート、15カ国以上の映画祭で上映が決まっており、海外でもさらなる展開が広がっている

『LOST LAND/ロストランド』は2026年4月 ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma新宿、ポレポレ東中野ほか全国公開



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